数値の錯覚に要注意

 

◆EPOに即効性はない

 

EPO(ヒトエリスロポエチン)は、1回や2回注射したって効くものではありません。1回や2回コッキリ注射しただけでただちに、劇的に貧血が改善されたなら、そのコは腎性貧血ではなかったのかもしれません。

 

自前のエリスロポエチンが弱々しい指令しか出せない状態において、ヒトエリスロポエチン(EPO)が体内に入れられます。

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EPOから「赤血球作れ〜」と指令が出て、鉄分やら葉酸やら、それらと協調して働くビタミン12やらを材料とし、赤血球も少しづつ生まれ、少しづつ成長していきます。

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EPOの効果があれば赤血球は生産され成長していきますが、少しづつです。一方、死滅していく赤血球も日々あり、赤血球はわずかづつしか増えません。

※赤血球は日々生まれ、日々死滅しています。もともとの、そのコが持つ赤血球の大きさにもよるようですが、赤血球の寿命は「30〜70日」とネコによって幅 があるようです。

 

かなり大雑把ですが、↑のような流れです。赤血球が成長するまでは時間がかかるわけですから、そんなに劇的に貧血が改善されることは考えにくいのです。もともと成長している赤血球を体内に入れる輸血とは、ぜんぜん違います。

※輸血もほぼ不可能に近い成分輸血でない限りは、白血球やらなんやら、すべてが体内に入ってしまうわけで、ネコによっては拒否反応が出ることがあります。

 

腎性貧血は、ハッキリ診断されるというよりも、「たぶんそうであろう」と予測されているのが実情です。「実は腎性貧血ではないコにEPOを投与していた」という事態も起こりえますから、EPOを投与するならまめな血液検査をして、状態をしっかりと把握することが望ましいと思います。

 

 

◆点滴や輸液をしているときにEPOを使うと…

 

で、腎性貧血のコにEPOを使った場合ですが…

繰り返しになりますが、EPOが「赤血球作れ〜」と指令を出し、赤血球が作られはじめ、それが状態や数値にあらわれるまで、最低でも数日から1週間、もしくは10日ぐらいかかるといわれています。ネコによってはもっと時間がかかると思います。

 

EPOを投与する時。これは、腎不全が悪化している時期であることが多いです。

腎不全が悪化している時期には多くの場合、静脈点滴や皮下輸液が行われます。

 

静脈点滴や皮下輸液をすると血液は薄まります。赤血球の数は変わりません。赤血球がオシッコとともに流れ出て行ってしまうわけではありません。

が、血液が薄まるので、静脈点滴の量や頻度によっては5%も6%も、場合によってはもっとHt(ヘマトクリット)やPCVは下がります。

食欲もないですから、「食べないことによる貧血」も起きていると思います。

 

・腎性貧血

・食欲不振の貧血(そして鉄分も不足)

・皮下輸液や静脈点滴で血が薄まる

というように、貧血を助長する材料がいっぱいです。

 

静脈点滴もしくは皮下輸液とEPOの投与を同時に行ったとして。

その量にもよりますが、翌日も翌々日も貧血を示す数値は、下がってしまうかもしれません。血は薄まるし、EPOはまだ効いてこないわけですから。

1週間後、まだHtやPCVは上がってこないとしても、これっぽっちも不思議なことではありません。

 

しかし、こういう状況でありながら、EPOを投与してまだ日が浅いのに、「貧血が解消されていない!EPOが効いていない!抗体ができたかもっ」と決めてしまう獣医さんが、残念ながらいるのです。点滴で血液が薄まっていることがスコーンと抜けてしまっているというか。

 

途中でストップしないといけない状況ももちろんあります。抗体が出来る場合があるといわれているわけですから、それによって貧血が進んでしまうこともあるのかもしれません。

ただ、ネコに副作用が出るなどの症状が出ないなら、1回コッキリ、2回コッキリ使って「効かなかった」と決めつけるのは、あまりにもセッカチな印象です。

 

アンケート結果をご覧いただけばおわかりいただけると思いますが、目標とする数値に上げるまで1ヶ月以上も投与し続けた例は普通にあります。

抗体は確かに怖いですが、投与すると決めたなら、まめにモニタリングしつつ、副作用などがないなら、ある程度は継続することが望ましいように思えます。