EPOのデメリット

 

なぜ、EPO(ヒトエリスロポエチン)を獣医さんはガシガシ使わないのか。

それは、EPOにはデメリットがあるからです。

 

抗体の形成

そもそもEPO(ヒトエリスロポエチン)は、ヒト用の造血ホルモン剤です。ネコ用ではないものをネコに使うわけで、それによって全体の30%に抗体ができるといわれています(ネコ用のエリスロポエチンもアメリカで数年前に開発され、使われた時期があったようですが、ヒト用よりもさらに抗体ができることがわかり、現在では使用されていないようです。ただし、研究は国内外で続けられているようです)。


しかし、実は30%といわれる「抗体ができる確率」は、獣医さんによっては5〜75%と意見や感想が分かれるようです。
そして「30%」と結論づけた臨床実験の参加ネコは、たったの 11匹だったとか(興味のある方はどーぞ)

言い換えれば、「70%のネコには抗体ができない」と仮定できますが、たったの11匹から得た結果なだけに、本当のところはわかりません。

 

では、抗体がもしできてしまったらどうなるのでしょう?
抗体ができてしまうことによってもっとも問題になるのは、難治性貧血、骨髄低形成(赤芽球癆)を起こすことです。
抗体はEPO(=ヒトエリスロポエチン)だけではなく、猫の自前のエリスロポエチンの働きまでをも無効にしてしまうことがあるのです。


腎性貧血になっているとはいえ、ちょっとは赤血球は作られています。極論ですが、まったく作られなくなればHt(ヘマトクリット)やPCVはゼロになってしまうわけですから。

腎性貧血の場合でも、自前のネコエリスロポエチンは、細々ではあっても働いてくれているようです。

これが抗体ができることで働かなくなってしまったとしたら…大問題です。


しかし、もし抗体ができても時間を空ければ消えていくそうです。
抗体の濃度が下がれば、EPOや猫の自前のエリスロポエチンに対する打消し作用もなくなっていくということです。
赤芽球癆をおこしてしまったネコも、免疫抑制剤で治療ができたという例が海外のあるサイトには情報として載っているそうです。
私の主治医も、「たぶん抗体ができてもそのうちなくなると思います。でもなくなるまでの期間がわからないし、抗体がある間は輸血しか手がなくなります…」というようなことをいっていました。つまり、抗体ができてしまうと、貧血がひどい場合は、輸血しか手がなくなってしまうのです。

EPOを投与している時期、ネコの調子が悪く、食欲不振だったり、静脈点滴や皮下輸液をして血液が薄まりやすい状況にあるとしたら、これらが要因で貧血が緩和されないのか、抗体ができて貧血が改善されていないのか、見極めが難しいと思います。

では、もし抗体ができてしまって、それをステロイドなどで治療し抗体が減ったら、なくなったら、再びEPOを使用することができるのでしょうか?
これについては残念ながら現状では否定的な意見が大半のようです(でも希望があるという情報もまったくないわけではありません)。

 

※長期に継続して使うことで抗体はできやすくなるのか、はたまたその確率は単発で使っても変わらないのか…といったことは、今はまったくわかりません。

欧米でもたまに『ヘマトクリット が上がったらストップし、貧血がすすんだら再び始める』というような方法をとる獣医さんがいるそうです。
そのほうが抗体が作られにくいんでは?と いうような期待も込められているのかもしれませんが、継続して使うのと、一定の時間を置いて貧血になったらピンポイントで使うのと、どちらが抗体が作られ にくいか?については、現在明らかになっていないようですし、今のところそれら研究についての情報を見つけられませんでした。
『継続して数多く使えば、それだけ抗体のリスクが増える』と考える人がいても不思議ではないと思うのですが、『間歇方式だと、むしろ抗体が作られやすいかも。それにヘマトクリットがふらふら上下することで血圧にもよくない影響があるんじゃないか』というような意見を述べている獣医さんもいるそうです。